船戸与一、逝く

今朝の新聞を読んでいて、ああっ! と思わず声が出たんよね。


訃報なんよ。


作家、船戸与一が逝去した記事。



その記事に接した後ね、


自分でも驚くぐらい長い溜息が出たわ・・・・。



なんかね、終わってしまったな~って思ってね


たとえようもない喪失感が全身をね。



私は幼少の頃より一人でいることが好きやったんよね。

物心がついた時からすでに人間が嫌いやったしね。

そんな私にとって読書こそが最適な趣味やったんよ。

本を読んでいれば一人でもカッコ付くしね。




そんでね、最も影響を受けた作家が船戸与一なんよ。

初めて読んだ作品は「猛き箱舟」。



はっきり覚えているわ。

中学2年生の時やったんよ。

上下巻のハードカバーでね。

サソリの図柄やった。


新刊のハードカバーやから中学生には結構な出費やったけどね。

でも全く高いなんて微塵にも思わなかったよ。

内容が凄まじかったからね。


上巻を一晩で、

下巻をこれまた、一晩で読んだわ。


寝てられかったんよ、勿体なくてね。

次の日に学校に行くのが悔しくて仕方無かったほどよ。



あまりにも面白くてハラハラして、さらに衝撃的でね、

読了後は放心状態になったわ。


しばらくは何も手につかなかったほどよ。

そんな状態が2.3日続いたわ。



以来、

この作家の本はすべて読んでいるんよ。

「非合法員」から遺作となった「満州国演義」までね。


彼がチャンドラーを批判して、「チャンドラーがハードボイルドを堕落させた」と発言した時は鳥肌が立ったね。 

彼の作品には綺麗事や安っぽい道徳論等は一切無し。

痛いほどのリアリズムが根底にある。 

これが船戸与一かと、彼の凄まじさを痛感した。 


しかし、それだけに読んでいて辛くなるんよね。 

結末も救いが無いんよ。

惨たらしくてね・・・・。

体調不良の時は読めなんよね。

なんか、”中身に負ける”というかね。


読書をするにも体力がいるとね、

彼の作品で学んだわ。

それぐらい痛くて重いんよ。

でも惹きつけられる作家やったよ。





琥珀色の酒精を舐めながら、俺は掠れた声を上げた。


「あ、ああ・・・、何てぇこった・・・。」


喉がぐいぐいと締め付けられた、

そう、ぐいぐいと。


「ま、まちな! 船戸さん。」


「世界は今混沌としている、あんたが書くべき題材は幾らでもあるじゃないか?」

濡れた唇をぬぐった。


「この先、どうすればいいというんだ、この俺は?」


「あんたが居なくなって、この俺は一体何を読めばいいというんだ?」




船戸与一、享年71

心からご冥福をお祈りします。
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